ハルト  by ともろー様


午前10時、8時には目覚めていたが、今日は特に予定もないのでそのままベッドの上でごろごろ動画を見ていると着信音が鳴った。

ディスプレイに表示される相手は「父さん」

一週間ぶりの電話だな。
無視して動画の続きを見たいという思いもあるけど、父さんからかかってくるなら出るしかない。

「もしもし、ハル?」
穏やかな父さんの声が呼ぶ。

「もしもしー
どうしたの?何かあった?」

「何かないと電話したらだめなのか?元気にしてるかなと思っただけだよ。」
いつも電話は俺からなのに、父さんからとは珍しい。

「うんまぁ、元気元気。」
春休みにも入ったし楽なもんだ。一つ気がかりなことはあるけれど、、、、
体は元気。

「ちゃんとメシは食ってるな?」

「まぁまぁ、かな。」

ここ最近大学にもいかないしカップ麺ばっかだ。
机に空のカップが三つあるのを思い出してしまった。捨てなきゃ。

「引っ越しの準備はもう出来たか?」
「大体は。」
「そう、なら手伝い行かなくても大丈夫なんだね。」
「いいよ、その歳でそんなこと気にしなくても…」
「なんだと。」
ちょっと可笑しくて笑ってしまう。

俺は春から大学二年に上がる。
1年目は全学部共通で一般科目を履修し、2年生からはここから一時間くらいのとこにある新しいキャンパスで専門科目を勉強する。
これから三年間は向こうのキャンパスの近くの寮に引っ越して新しく寮生活だ。すごく楽しみ。

「一人暮らしもやっと終わるな。安心するよ。どうせカップ麺ばっかだろ?」

あぁ、バレてる。

「…まぁね。寮のご飯は正直ありがたい。」

家賃食費込みで月3万円。
経済的にもめちゃめちゃありがたい。

けど、一つ気がかりなことがある。
俺は春から半年間、毎週ここに戻ってくる必要がある。
片道電車で1時間。
往復料金3千円

実は留年までは免れたものの進級に必要な単位を2つ落としてしまった。実に言いにくい話。

なので、毎週2つの授業を受けるためにここに通うことになる。

これを俺の大学では俗に「はんりゅう」という。
漢字で書くと「半留」

意味は半分留年

1時間の授業を受けるために往復2時間の通学が必要だから、本来なら学部キャンパスで受ける授業を受けられない。
その皺寄せが3年次にくる。

1年次の留年は免れたが、4年に上がるとき留年する可能性が非常に高くなる。

俺、そんな器用に単位を取れるかな?
うん、思い出したくないことを思い出してしまった。

「ところで父さん?兄ちゃんは元気?」

電話の奥で小さなため息がきこえる。嫌な予感がするのはどうしてだろう。

「ハル?その前に父さんに報告することないのか?」

え、心の声聞こえてた?

父さんがこんな聞き方をするのは、昔からいつも悪いことをしたあとだ。
単位を落としたこと、報告すべきだろうか?
うーん、留年だったら言わなきゃまずいけど、単位のことは隠せるなら隠しておきたい。
だって、理由を聞かれたときにあまりいい答えがない。

よし

「父さん、実は、俺、彼女が出来ました!」

お付き合いの報告は実家にいたときからしょっちゅうしている。
聞かれないけど、聞いてほしい話。
母さんには言えないけど、父さんには言える話。

「うん、そのことなら知ってるよ。」

え、!?

「だって、ハルのツイッター見せてもらったから。」

えっ!!

「父さんスマホに変えたの?」
「そう。」

おいおいおい、息子のツイッターを見る親なんている?
確かに、プロフィールに出身高校とか大学名とかサークル名を書いてるから特定できるけど。
ハンドネームだって「ハル@落単orz」ってまんまに書いてあるけど。

「そ、そっかぁ。ついに父さんもスマホデビューか、おめでとう。」
焦りを悟られないよう言ってみる。

「ハルー?」
父さんの低い声…
ものすごく無理があった。

「す、すいません…彼女できたついでに単位を落としました。」

なんだかヘビににらまれたカエルのような気持ちになってベッドの上で正座をはじめた。
うぅ、大学生になってもこれかよ!!久しぶりすぎてしんどい。

「全く!
落とした単位は何と何?」

「英語と数字です。」

「理由は?」
理由…それはツイッターに載せてある。
「彼女と遊び呆けてたからと思われます。」
父さんのため息が聞こえる。

「まさか、授業サボってたってことはないよな?」

あー。。。

「ウソついても声でわかるからな。」

う。。

「サボったことないと言えば嘘になるかもしれません。」

「何回?」

「言わなきゃだめ?」
父さんがまた電話の奥で大きなため息をついた。

「お前さ、講義サボるのが悪いことってわからない?
大学生なんだから、もう大人だろ。ある程度は失敗もするし、失敗したツケは自分で払うことも勉強だと思ってる。
けど、ハルの学費は誰が出してると思う?父さんと母さんと、あとケンも少し手伝ってくれてるんだよ。」

う、、そうだった。
父さんも母さんも定年を迎えて年金生活、学費の足りない分は兄ちゃんが助けてくれている。

そうか、兄ちゃんの働いたお金を彼女と過ごすために使ったってことなのか。
初めて実感して
「ごめんなさい。」
の言葉はすぐに出た。

「父さんとしてはゲベで大学入ったお前が留年しなかっただけで褒めてあげたい気分だったけど、今回は理由が悪い!ちゃんと反省してる?」

「はい。」

「なら、どうやってケジメつけようかね?」

来たそれ…

「おいで、尻叩いてやるから。」

自然に言われた。あとちょっとで返事をしそうになった。

「ちょっと待って、どうやって?」
尻叩かれに実家に帰れと?

「さっきケントのこと聞いたよな?
ケント、あさって出張でそっち行くんだ。いいこと思い出したわ。」

なに!?
タイミング良すぎじゃね?

「どうせだからケントにその意思の弱さを叩き直してもらいなさい。父さんのかわりに。」

行く手間省けて良かったとでも言うように父さんの声は明るかった。

「えぇー」

「言うけど、単位拾いに戻る電車賃は出さないからな。」

心得てます。

「責任は自分で取りなさい。今年しっかり落とした単位を取り戻して、2年次に本来取らなきゃならない単位は3年次に何がなんでも取り戻しなさい。」

「はい。。。がんばります」




***





大学に行ってまでお仕置きされるなんて考えもしなかった。
兄ちゃんてのはちょっと助かるけどそれでも恥ずかしい。
せめても、美味しいメシでも作って機嫌を取ろうと考えた。

兄が帰って来たのは20時を回ってからだった。彼女と宅配屋さんしか鳴らさないチャイムが鳴って開けたくない思いも半々、会いたい思いも半々でドアノブを回した。 出張というのは本当だったようで兄は疲れた顔をして入ってきた。

「久しぶり、ハル。」
「お帰り。」
兄は父さんのことなど知らないというように普通に入ってきた。。
「メシ、出来てるよ。入って。」
「お!ハルトが?ありがとう。」

「にしても初めてだな。ハルの手料理なんて。」
「どう、旨い?」
兄は苦笑いして親父といいセンスと言った。
くそ、失敗。
何事も無かったように夕食を終えて、食器を片付けている間、兄は仕事の資料に目を通していた。その、ノーネクタイに袖を捲り上げたシャツ姿が父さんに似てるし、今まで知らなかった兄の大人な一面を見た気がした。
ベッドの上でそうする兄にオレは次の作戦に移る。

「兄ちゃん。ここさ、風呂ないからさ、久しぶりに一緒にふろでも入りにいかない?」
我ながら可愛い弟を見事演じきっている。そしたら兄に小さく笑われた。

「どしたの?」
「やっぱり親父はすげぇなと思ってさ。」
「え、どういうこと?」
「ハルトの行動。全部、親父にはお見通しだぞ。」

待って、マジ?
ご機嫌取りバレてた?

「兄ちゃん…」

「風呂行く前に、オレとしなきゃならない話があるだろ?」
兄と言うより親に見えてくる。
ヤバい、オレ!!今、尻疼いた。

「諦めて、そこに正座して。」
「兄ちゃん…」
「昔から往生際の悪いのは変わってないな。もう、ハルのおしおきは決定事項なわけ。」

待って、その4文字嫌い。
汗でる。

「兄ちゃんもさ、出来ることなら可愛い弟にこんなことしたくないよ。本来なら、あんなまずいメシ食わずに外食でもして、仲良く風呂入ってたはずだったのにな。」

まずいメシってひでぇよ!
容赦ないな!

「お前、彼女とのデートにかまけて単位落としたんだって?」
兄は短いため息をついた。
「大学生なんだから、いい加減物事の優先順位くらい自分でつけろよ。」

そうなんだけど。
昔から勉強苦手。

「もっと説教いる?」

「いらない。」

「反省してるか?」
「してる。」

「なら、早く済ませよう、ハル。」

膝をたたく。
昔ならそれはだっこの合図だったのに。

兄はカバンから何かを取り出した。
出た!懐かしい、定規。まだ、あったんだ。
「親父から預かってきた。」

「おいて来れば良かったのに。」
パシンと手の中で音を鳴らして俺はビクッと肩が揺れる。

「ハル?自分で来れる?」

「はい。」

俺は足をいたわりつつ、ベッドにあがった。
「乗るの?」
「もちろん」

冷たい、親父モードの父さんと変わらない。
定規を尻に当てて、これ下ろせ。と告げられる。

「勘弁してよ。俺、大学生だよ?」
「親父の命令だ。」

マジかよ、父さん。
指示が細かい。

「ちなみに兄ちゃん、何回て言われたの?」
「さぁ、どうだろ?」

渋ってたら一発打たれて諦めた。
覚悟を決めてベルトのバックルに手をかけしぶしぶそれを外す。

パチーーン!!

一発目は強烈でみみず腫はすぐできた。


***


本当は不本意。
オレも単位落としたことは一度だけあって、そのときもハルトと同じように親父に説教された。お仕置きまではなかったけど、ハルトの場合は授業をサボったんだから仕方ないだろう。
誰の金で行かせてやってると思ってる?

お互いに叩くのも叩かれるのも久しぶり。加減が分からず1発目からピシッっと尻に跡が残ってしまったのですぐに温情する。だけど、ハルトは回数を重ねるごとに痛がって痛がって、じりじりと尻が逃げ出した。
確かに定規は痛い。だけど、あの様子じゃ大して反省してない感じだったしすぐに尻を戻す。
30を越えてから声が漏れ、ついに我慢を越えたことを知る。

「痛い!!」
「当たり前」
もういいかとも思ったけど謝るまで止めるなと親父から釘を刺されている。
「もういい!!もういい!!」 「お前が決めることじゃないだろ。」 一定のリズムでしならせた定規を打ち込んでいく。ハルトはその度に体を小さく反らしてシーツを握りしめていた。
「兄ちゃん、勘弁!」
喉から嗚咽を漏らしてそう叫ぶ。

え、泣いちゃう?
おいおい泣く前になぜ謝らないんだ、こいつは?
知らないうちに力が強まっていた。
「いってぇーー!!」

「ハル!反省してないだろ。」
「してる!!ごめんなさい、兄ちゃん!!」
「痛い、痛いって!」
手で尻を覆う。
「聞くけど、お前何しに大学行ったの?」
叩く手を止めてそう尋ねる?
「それは…」

言えないのか…

「兄ちゃんさ、お前から入学の内祝いに手紙貰ったんだけど内容、お前覚えてるか?」

これからの目標が下手な字で書いてあった。

「忘れてないよな?」
「忘れてないけど。」
「彼女つくって楽しむのもいいけどさ、もうちょっと先のことも考えろよ。
そろそろ、オレだって父さんだって、ハルトのこと助けてやれなくなるんだから。分かるだろ?」

ハルトはこくんと頷いた。

「返事ははいだ。」

「ごめんなさい。父さんも兄ちゃんも精一杯なのに。」

「そりゃ、まだまだ助けられるうちは助けたいけど、どこかでハルトも自立しなきゃな。」

「はい。」

「今のうちに失敗していいけど、ちゃんと反省して次に進んでいけ。オレはその手伝い。」

ピシッ!!
キツい一発を打ち込んでやる。

「いってぇーー!!」
「あと、50回。これが最後のお仕置きになるなら泣いてもいいぞ。」

「うぇぇ、ごめんなさい、ごめんなさい!!
これから頑張ります!!
許して!!っっ!」



***



「はい、終わり。
尻、仕舞え。」

ハルトは項垂れたまま尻をしまった。
結局泣きじゃくるまで叩いてしまった。

「痛かった」
濡れた顔で見上げる
「お仕置きだからな。」
「痛い痛い!」
怒ったように叫ぶ。
「はいはい。よく逃げ出さなかったな。」
頭に手を乗せて叩いてやる。

「兄ちゃん、体罰反対じゃなかったの?」
涙のたまった目でこっちを見上げる。


「自分の子供にたいしてはな。
ハルトは別だよ。親父の子供だし。」
「ひでぇ」

「ひどくない。オレだって何回もこれで尻叩かれたし。」
「俺より優秀なのに?」

「親父は生活態度には厳しかったからな。
成績が良かったのは単に父子家庭だからって思われたくなかったから。」

「へぇ」

オレは立ち上がってハルトを見下ろした。
「ほら立てよ。風呂行くぞ。」
腕を掴んで引っ張り立たせると腫れた尻が服に擦れて痛んだのか、よろけて座り込んだ。

「痛いよな。」
「誰のせいだと思って。」

「あれ、まだ理解してないの?
もう少し叩いてみる?」
親父の真似をしてみる。

「俺のせいです。」

どこかで聞いた会話だな。

「てか、この尻で風呂行くの?」
自分の腫れた尻をいたわるように撫でる。
「オレも、子供のとき行ったことあるぞ?」
「俺学生なんだけど。」

「分かった。風呂で彼女との話聞いてあげるから。」

「え、ほんと?」
ハルトが表情をコロリと変えた。






ともろーさまより頂きました。

365日シリーズの二次創作小説です^^

ハルトくんのおはなし
キャラの特徴がよく出てるなーと思います。

かわいかったので許可の元、掲載しました〜

2022.5.3

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